Creator’s Lounge/内村光良氏に聞く

初の書き下ろし長編小説『ふたたび蝉の声』発刊記念
内村光良氏スペシャルインタビュー【創作舞台裏エピソード】

 2年連続『NHK紅白歌合戦』総合司会、3年連続「理想の上司」No.1に選ばれるなど、誰もが認める国民的スター、内村光良氏。そんな内村氏が、自身初となる書き下ろし長編小説『ふたたび蝉の声』を上梓。本作の内容を内村光良氏にうかがいます。

【プロフィール】

内村光良氏

内村光良(うちむら てるよし)

お笑い芸人・映画監督・俳優。1964年7月22日生まれ、熊本県人吉市出身。AB型。1985年、横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)演劇科卒業。お笑いコンビ「ウッチャンナンチャン」を南原清隆と結成後、お笑い芸人にとどまらず、俳優、映画監督、司会者、作家など多彩に活躍中。『世界の果てまでイッテQ!』『スクール革命!』『THE突破ファイル』(以上日本テレビ系)、『痛快TVスカッとジャパン』(フジテレビ系)、『そろそろにちようチャップリン』(テレビ東京系)、『LIFE!~人生を捧げるコント~』(NHK総合)、『内村さまぁ〜ず』(Amazonプライムビデオ ほか)等、多数出演。毎年、『内村文化祭』と題して、ライブも行っている。

「ビッグコミック」6号

■ビッグコミック3月9日発売の6号の表紙を飾る。

――今回、完成した「ビッグコミック」6号(3月9日発売)表紙の似顔絵イラストをご覧になっていかがですか?

内村光良氏(以下敬称略):ずっと前に「ウッチャンナンチャン」としてコンビで登場して以来なので、だいぶ久しぶりだと思います。手描きって素晴らしいですね。ちゃんとブツブツまで描いてある。目のシワも。まるで写真ですよね。あの20年くらい前の、コンビを描いてもらった時はキラッキラしてましたね。それから比べると年取りましたね。ほんとにそっくりです。素晴らしいです。

――初の書き下ろし長編小説、前から構想があったのですか?

内村:『金メダル男』という本を出した後に舞台『東京2/3』をやったのですが、それが業界の群像劇だったんです。それが引き金になって、今度は業界の小説を書いてみよう思いました。最初は売れない役者の物語にしようと思って第1章を書いていたんですが、第2章から家族とそれをとり囲む人の話に変わっていきました。今回は腰据えて1年がかりで書きましたし、小説を書いた!という感じがします。情景を思い浮かべながら書きましたけど、映像化は無理だろうということが念頭にあるので、本の世界でみんなが想像できるように書いていきましたね。

――じっくり取り組まれた長編小説ですが、書いていてどんな部分が楽しかったですか?

内村:キャラクター作りが楽しかったですね。たとえば竜也っていうパチンコばっかりやってる冴えない奴がいるんですが、周囲の人からパチンコやってんだーっていう話や、借金あるんだっていう話を聞いたり、スター選手だったけど落ちぶれちゃったとか、それを混ぜ合わせてたら竜也というキャラクターができたんです。あと個人的には勝利というちくわ店の長男も好きですね。町にいそうな、なんにもわかってないあいつが好きなんです、勝利。誰かと誰かを足したりだとか、まったくゼロから作ったキャラクターもいっぱいいますし、モデルを引っ張ってきてるのもありますし、いろいろです。

――この物語を引っ張る、進というキャラクターは、やはり内村さんがモデルですか?

内村:ちょっとあると思います。ちっちゃいときから仮面ライダーやブルース・リーのマネごとばっかりしてたのは自分に当てはまったりするので、そういうのが講じていって、私の場合は映画監督でしたけど、進は役者を目指すというふうに書いていきました。

――日頃から面白い人がいたらメモしておいたりするのですか?

内村:飛び抜けて面白い人は書き留めてます。本屋さんでずーっとでかい声で話している人がいたので、気付かれないようにその人の後ろにずーっと付いていって、忘れないようにその人の言葉をノートに書いたこともあります。この人はコントになりそうだ、ひとりコントをやろうかと思って。すごい面白い人、ときどきいるんです。能動的に探したりするわけじゃなくて、うまい具合にやってくるんですよ。遭遇するんです。そういう人に出会えるとラッキーだなって思います。

――ストーリーもキャラクターのように書きながら決まっていったわけですね。

内村:第2章から時空を超えるように、現在に戻ったり、戦後に飛んだり、書いてるうちにあっちゃこっちゃいってしまうようになってしまいました。キャラクター先行でしたから。進に姉がいる設定にしたのが大きかったんです。はじめはまったく進の姉弟なんて考えてなかったんですけど、だんだん進の姉・ゆりのキャラクターが膨らんでいったというのがあります。実は私のいとこのお姉さんがガンだったことがあり、ゆりとは年齢も職業もまったく違いますけど、ガンに侵されたというのは下敷きになってます。だからゆりがもう自分の中では女神のようになり、最後は神格化されました。

――書くために取材はしましたか?

内村:サンフランシスコは、家族で旅行に行ったことがあるんです。非常に印象強く、はっきり覚えていたのであれだけ書けました。旅行の思い出じゃねーかよっていう長さで書いてしまいました。コスモス畑も実際に行ったことがあって、本当に素晴らしかったんですよ。だからここは舞台になると思って選んだ景色ですね。やっぱり自分で行ったところが印象が強いし、そのときの風の匂いとかね、景色とか、色とか書けますよね。

――舞台のひとつ九州というのは、内村さんの故郷である熊本ですか?

内村:小説では九州南部となっていますが、イメージした映像としては、自分の故郷がありますよね。連休があればよく帰っています。野球場と砂利山をみつけて、ここ小説の舞台になるなとか、帰ったことによって舞台が浮かんだりもするんです。

――この小説には、内村さんの人生観を反映させているんですよね。

内村:年を取ってきていることと、家族を思うこと、特に子どもができて非常に変わりました。誰でも年を取りますが、子を思うこと、親を思うこと、この年になると、やはり20代、30代、40代とぜんぜん違ってきてますし、それと親しい人の死を目の当りにするのもこの年になってから増えるので、死生観も変わってきます。いずれ自分も死ぬんだから。そう思うと、日々の暮らし方も一生懸命にという考えになりました。

――書き上げたときに、奥様に読んでもらいましたか?

内村:最終稿を、忙しいときにすみません…と言って読んでもらいました。ドキドキするじゃないですか。どんな反応するのかと思って、読み終えるのを待ってる時がいちばん気もそぞろですよね。そしたらあっという間に読んで。ほんとに読んだの?っていうくらい早かったんですよ。「泣ける物語なんだね」と言われました。

――読者の方には、どんな気持ちになってもらえたらと思いますか?

内村:日々生きていることの大事さというか、瞬間瞬間を大事にしようでしょうか。なんにもしないで1日終わっちゃうことあるじゃないですか。それもそれで大事なんですけどね。この物語の中に、“人生は、長いようであっという間”という言葉が出てくるんですが、銀メダルで泣いてしまった時の浅田真央さんのコメントから来ているんです。とても印象的ですごくそれが胸に刺さったんですね。だからみなさん、長いようであっという間ですから、毎日を大事に生きていただけたらいいなという思いを込めました。

『ふたたび蝉の声』

『ふたたび蝉の声』(小学館)


内村光良著

<あらすじ> いろいろあるけど、前に進もうと思う。
五十歳を目前に控えた進は、役者という職業を細々と続けながら、東京で暮らしている。最近ようやく順調に仕事が入るようになったが、娘と妻のいる家庭内では、どうにも居心地の悪さを感じるようになった。
ときどき、ふと漠然とした不安を感じることがある。これから自分たちはどうなっていくのか……。
故郷で一緒に育った姉、友人。老いていく父と母、そして今の家族、妻と娘。進の人生に関わるさまざまな人がいる。そして、それぞれがひとりひとりの人生を生きている。でも、どこかで重なり、繋がり、そしてお互いの人生に何かのきっかけを与え続けていく――。
“人生は、長いようであっという間”。翻弄され、迷いながらも家族や人生と向き合い、懸命に生きる人々を描いた群像小説。

撮影/田中麻以 ヘアメイク/鷹部麻理 スタイリスト/中井綾子 取材・文/猪狩久子
■『ふたたび蝉の声』の詳細はコチラ
https://www.shogakukan.co.jp/books/09386535